【火花(立志編)】

「このままじゃ、心筋梗塞まっしぐらですよ!」

数年前の健康診断で医師に死を予告された。
確かに、当時の私は太っていた。

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「節操なく食ってるわけでもないのに太るのだから、加齢による不可避な、且つ自然な摂理であろう。死亡フラグを立てるとは何事だ」当然の反論に思えた。
「運動しなさいよっ!」
なるほど、もっともな意見だ。
早速、ダンベルを買って自宅でトレーニングを始めた。

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きつい・・・きつすぎる・・・
長年の不摂生がたたり、数回の筋トレ運動でも私の心臓と筋肉は悲鳴をあげた。
エアコンの ↓ ボタンを連打し、部屋の温度を氷点下にした。
ソファに深く腰掛け、首から下げたタオルで額の汗をぬぐった。
ビールだ、あとは冷えた「びいる」があれば完璧に快適だ。
私はびいるへの渇望から、無意識にエアジョッキを握り、口に運んでいた。
その時、部屋のドアが開いた。女房だった。
「寒っ!何この部屋?寒すぎっ!」
氷点下の部屋で、首からタオルを下げて、脂汗を垂れ流しながら、エアビールを飲んでいる自分がとてつもなく滑稽に思えた。
そんな目で俺を見るんぢゃない。
「はいはい、休憩はおしまいですよぉ~♪」
くそうっ!馬鹿にしやがって!今に見てろよっ!
私は立ち上がった。そして、目の前にいる虚像の太った自分に右ストレートを放った。
ペガサス流星拳!

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虚像は無数の氷片となり砕け散った。
   →→「向上編」へ続く

【タバコとドクロと悪魔と俺と】

以前に住んでいた賃貸マンションの壁は、タバコのヤニで激しく汚れていた。
そんな訳で、現在の住居では「室内禁煙」を貫いていて、専らベランダでタバコを吸っている。
エアコンの室外機を隠す目的で作らせたイペ材(南米産のハードウッド)のラック横に喫煙スペースを作った。

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骸骨の手が香を摘むスタンドは、中華街の雑貨屋で購入したお気に入りの一品。
予定外に早く帰宅した週末。春先から栽培しているスペアミントの葉を摘んで、冷えたモヒートを作り飲んでいる。

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怪しい煙モクモクの空間で呪文を唱えた。
「&%$※※!!!」
すると悪魔が現われてこう言った。
「あんた酔ってるぜ」

呼び出した悪魔は意外と真面目な奴だった。

【チョロQ】

「さて帰るか」と、事務所に鍵を掛けた。

ふと柱を見るとヤモリが張り付いていた。

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梅雨の時期から晩秋に掛けて、コイツがちょろちょろと顔を出す様になったのは数年前からの事。
「お前で何代目だ?」と、問いかけるが、当然返事は無い。
そもそもヤモリの寿命はどれくらいなのだろう?
昔なら電話相談室に聞いてみるところだが、今はネットがあるのでチョイと調べてみた。

 

「20年生きます」

 

ええっ!びっくり!そんな長生きだったのかっ!
「こいつのエキスをすすればきっと長生きできるに違いない」
悪魔的な考えが浮かび、頭を振って打ち消した。

しかし、不穏な空気を察知してイモリはちょろり、ちょろりと物陰に隠れてしまった。
「すばしっこい奴だ!ちょろQと命名しよう!」
・・・いかん!うっかり名前をつけてしまったので愛情がわいてしまった!
今ではすっかり市民権を得た、わが社のマスコットの「ちょろQ」である。

【ぴーちゃん】

夕方、ひょうたんに水を遣っていたら、カミサンからメールが入った。
「我が家にインコがやって参りました~」

 

なにっ?

 

俺に何の相談も無しにインコを買ったのか?
磯野波平なら、ここでこう言うだろう。「ばっかもーんっ!」
しかし、ちょっと待て。
動物好きな二人だが、我が家は共稼ぎ、「ワンたん」や「ぬこ様」に十分なお世話する事もままならない。引退してから飼おうと提案したのは私であった。

 

以前ほどでは無いとしても、私は家を空けることが多い。

女房のやつ・・・寂しかったんだな・・・

私は、女房が一人ぼっちの部屋で頬杖をつき、インコと会話をしている姿を想像し目頭が熱くなった。

よしっ!二人でインコの世話をしようっ!
名前はどうする?
インコといったら「ぴーちゃん」に決まっているではないか。
よしっ!「ぴーちゃん」に決まりっ!

さあっ!家に帰ろうっ!
女房とぴーちゃんが待つ我が家へ!

 

しかし、家に帰るとぴーちゃんの姿は無かった。
代わりに、私の机の上に、小さな、プラスチックの、ガチャポンの景品の、インコのフィギュアが乗っていた。

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「なんでぇ・・・オモチャじゃねえか・・・」
がっかりしたが、不思議と怒りは感じなかった。
ほんの少し、自分は優しくなれた、そんな気がしたからだ。

そして、女房は知らない。
「どっきり」のつもりで買ったインコのフィギュアが、
私の宝物になった事を。

【肉球=萌え】

「車を洗わなければ」と思っていた。
しかし、雨が多かったので、まごまごしていたら、会社から貸与されている、黒いカローラFはすっかり「きな粉餅」状態だった。
ふとバンパーを見ると、猫の足跡が付いていた。
肉球!萌え〜っ!」
と、言うわけでシャッターを押した次第であった。

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【すずめ】

これはとある6月、雨の日の自宅バルコニーのワンシーンである。
すずめの大群が押し寄せてきた!何事だっ!

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数日前、バルコニーですずめが雨宿りをしていた。
その愛くるしい姿に「きゅん」と来た嫁が米粒をあげたのだそうだ。
すずめは大喜びで米粒をついばんだ。
翌日、外で泣き声がした。
「ちゅんちゅんちゅん(コメちょーだい!)」
なんと可愛いっ!おねだりしているっ!
嫁はたまらず米びつからコメをすくってすずめ達にあげたのだそうだ。
そう、何日も何日も・・・

 

何時しか、噂を聞きつけた町内のすずめ達が我先にと我が家のベランダに押し寄せて来るようになったのだっ!
しまいにはヒヨドリや鳩、名前を知らない嘴の黄色い変な鳥まで来る始末。
これはまずいっ!階下の住民から糞害の苦情が来るのは必至ぢゃ!
「ピヨピヨにえさをあげてはいけないよ」と嫁に優しく言った。
それから、すずめは来なくなった。我が家に再び平和が訪れたのだ。

 

雨が降らない青い空に入道雲がもくもくと湧いている。
バルコニーでそんな景色を眺めながら冷えた中国茶を飲む。
あの雨の日の賑やかなバルコニーの風景をふと思い出した。
賑やかな時代は後になって懐かしく思うのだなと、ふと感じた。

【CAT'S】

「現場を確認して見積もりしてください」
取引先から依頼された現場は横浜の「三ッ池公園」の近くだった。
私はこの公園の駐車所に車を停めて現場に向かった。
現場の確認には30分もかからなかったが、駐車場は終日で¥520の料金だ。30分で出てしまうのも不経済であろう。
「せっかくだから」と私は三ッ池公園を散策することにした。

私は猫が好きである。
そして、散策した三ッ池公園には猫がたくさん住んでいた。
猫好きが、猫に遭遇してしまったのだ。しかも、猫達は人懐っこいときている。
本当はコテコテと撫で回したいところだが、強面のオッサンが目尻を下げて猫をこねくり回していたら、不気味な光景に見えるかもしれない。
そんな訳で、私はささやかな独占欲を満たす為に、出会った猫達に名前を付けてやった。
私が名前をつけた猫達(英語で言うとCAT'Sだ)を紹介しよう。

 

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この子は「スフィンクス」だ。
ただ姿勢がそれに似ていたからだ。それだけだ。30秒後には違う姿勢をしていたが、変更は認めない。おまえは生涯、私から「スフィンクス」と呼ばれるのだ。
「ふふふふふっ!」
ファラオになった気分になり、私は思わず不適な笑みを浮かべた。いい気分だ。

 

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「おおっ!この貫禄!絶妙な角度のヒゲ!ふてぶてしい態度!威風堂々の名にふさわしい!」
わたしはこの子を「ノブナガ」と名づけた。
「本能寺では無念であったな」私はノブナガにそう語りかけた。
そういえば、先ほど妙にのっぺりした顔の白猫が居たっけ。「ミツヒデ」とでも名づけようか?
私は、無精ひげが伸び始めた顎をジョリジョリと撫でながら、思案した。
やがて、ノブナガは大きなあくびをした。そして、グーンと伸びをすると、私の側から離れていった。ノブナガは、丘の裾野に植えられた潅木の隙間に、体をのっそりと滑り込ませ、一言「にあ」と鳴き姿を消した。
「そんな昔の事は忘れたよ」とでも言ったのだろうか?
お見事でござる。

  

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3匹の個性的な猫が池の畔でたむろしていた。
3匹は座って何かを話し合っているようだったが、猫語だったので理解できなかった。
「座・ALFEE」と名づけよう。オリジナルは「ジ」だから著作権?(商標権?)には抵触しないだろう。「ザ」を漢字で「座」としたところも、文法上の誤りを回避する・・・
めんどくさいので「ザールフィー・ズ」とした。

うっかり、長居をしてしまった。公園の雑木林の間から見える日は傾きかけていた。
さて、会社に帰ろう。
これで俺様は帰ります。みんな、元気でな。
「・・・  (´;ω;`)」
いかんっ!また俺様の悪い癖が出てしまったっ!
名前を付けてしまったので、愛情が沸いてしまったではないかーっ!

 

つらい別れであった。