【物欲番長】

先日、私はブーツを手に入れた。
¥45,000のレッドウイングは却下されたが、チペワのブーツを格安で手に入れた。
女房は私をこう呼ぶ。
「物欲番長」と。

しかし、ちょっと待て!
過酷な環境の現場で、エンジニアの足を守るブーツを欲しがる事が物欲なのか?
否!
ブーツは必需品である!

 

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【写真①】は真空管ギターアンプだ。VOXのAC15である。

敬愛するロックバンド「QUEEN」の偉大なるギタリスト、「ブライアン・メイ」の愛機と同型である。彼はモンスターバンドのギタリストで、ホエール級のアリーナを満員にする。
よって、アンプの出力もそれなりの物を求められる。
私が持っているAC15は、たかが15ワットで、ライブハウスクラスの出力しかない。
ロックンロールに魂を捧げ、ギターもチョビット弾ける私が、小さな真空管アンプを持つ事が物欲なのか?
否!否っ!
真空管アンプは必需品であるっ!

 

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【写真②】は競技用マウス「SENSEI」だ。

アマゾンで¥10,000位した。
休日に、私はFPSゲームに興じる事がある。
FPSとはファスト・パーソン・シューティングの略である。
つまり、1人称視点のガンアクションゲームの事だ。
FPSは人気のあるジャンルである。インターネット経由で全世界の人々と対戦する。
スポーツもそうだが、世界レベルの競技では、繊細な動きが要求され、0.01秒の操作の遅れが勝敗を分ける。
SENSEIは「先生」の事である。
武道の世界では師範は「先生」である。海外であろうともマスターとは言わない。
「ハイ!センセイッ!」なのだ、「イエス!マスター!」とは言わない。
世界共通語のセンセイとネーミングされたこのマウスは、なんと!CPUが内蔵された、思考するマウスなのだっ!
どのように思考するかは・・・割愛する。
CPUが内蔵されていないマウスなど、私に言わせれば「ゴミ」である!
休日のささやかな楽しみを、勝利で飾るための、競技用マウスは物欲なのか!?
否っ!否っ!否太郎っ!
競技用マウスは必需品であるっ!

まだまだ、あるがこれ位にしておこう。
女房は私の事を「物欲番長」などと、悪意のある言い方をするが、私が手に入れた物には、所持しなければならない確固たる理由があるのだ。「必需品」なのだ!
私は負けない!めげない!あきらめない!
彼女が物欲と必需品の違いがわかるまで!根気良く説得し続けるだろう!

押忍!(俺って、何だか・・・めんどくせ~奴)

【続エンジニアの足元】

さて、今日は女房がレッドウイングのエンジニアブーツを買ってくるはずだ。
「れっど、れどれど、れっどうい~んぐ♪えんじにあ、ぶぅつぅ~♪」
あまりにも楽しみだったので、歌を作った。
それを口ずさみながらの帰宅だった。
「れっど、れどれど・・・ただいまぁ~!」
あれぇ?女房が居ない。買い物にでも行ったか?まあ、いいや。
さぁて、ブーツはどこだ?今夜は「慣らし」をしなければならない。
いきなり、現場のような過酷な環境に出してしまってはブーツが可愛そうだ。
ブーツには「慣らし」が必要なのだ。浸透力が高いミンクオイルを染込ませて、革を良く揉むのだ。
こうする事で、ブーツは苛酷な環境でも美しく、長く活躍する事になる。
がちゃ!玄関ドアが開く音がした。
あっ!女房が帰ってきた!私のブーツを携えて!
私はダッシュで玄関へ向かった。
「おかえりっ!」
待ってましたっ!女房!
ウェルカムっ!ブーツ!
れっど、れどれど・・・れっどぅぃ・・・
あれぇ?ブーツはどこ?
帰ってきた女房が手に持っているのは、マクダナルズの手提げ袋だ。
夕飯がビックマックなのは判った。しかし、ブーツはどこだ?
私のブーツはどこにあるのだ?
そうか!女房の奴、どこかに隠しているんだな!
じゃじゃ~ん!てな具合で、サプライズを演出したいのだな。
しかし、そのプロセスは不要だ。私は、早くブーツが見たいのだ。
私は回れ右をしてリビングへ向かった。
ここか?
テーブルの下を見た。ブーツは無い。
ここか?
茶箪笥を開いてみた。女房は良くここにスルメを隠している。ブーツは無い。
ここか・・・?
私は冷蔵庫を開けた。こんなところにブーツを隠しているはずは無い。そんな事は・・・判っている。
「何やってるの?」背後から女房の声がした。ぎくりとした。
「いや、ブーツがあるかと思って・・・」私は冷蔵庫の扉を閉めた。
「なんで冷蔵庫の中にブーツがあると、思うわけ?意味わかんねぇ!」
そんなことはわかってるよ!ただ、微かな望みに期待しただけなんだよ!
「あんたねぇ・・・あのブーツいくらするか知ってるの?現場で履く安全靴に・・・4万!5千円も!出せるわけないでしょうがーっ!」
昨日は買ってくれるって言ったじゃないか・・・
「でも、穴の開いた靴じゃ可愛そうだと思って、ブーツは買ってきたよ」
えっ!どこどこどこ?
女房は納戸を開いて包みを出した。
あっ!そんなところに隠してたんだぁ~♪意外~♪(冷蔵庫よりは素直な場所だ)
「展示品で良いから安くしろって交渉したんだよ。レッドウイングじゃ無いけどね」
私は紙袋を開いて中身を確認した。革の匂いがした。たまんねぇ~♪紙袋にブーツの底が引っかかった。もどかしいっ!おりゃー!強引に引っ張ると、紙袋はバリバリと破れてしまった。私はブーツを掌に乗せて、しげしげと観察した。
こ、これはっ!
 
 
写真の説明はありません。
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オオーウっ!「チペワ」じゃねーかー♪!
チペワもUSAの老舗ブーツブランドだ。
姿も「レッドウイング・ショートエンジニアブーツ」に、ほぼ一致する。
「これで、我慢するんだよっ!」
するするっ!しますともっ!十分です!
私は鼻を近づけてブーツの革の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
嗚呼!私は果報者です!
ブーツの底の固さを確認しなければならない。踵を頬に強く押し当てた。
嗚呼!硬さもいい~!
私はブーツマニアである。しかし、それで踏まれたいとは思わない系なので、念のため言っておく。
「ちぺ、ちぺちぺ、ちぺわのぶ~つ♪」
歌の出来はイマイチだが、チペワのショート・エンジニアブーツ!明日デヴューです!
 
 

【エンジニアの足元】

私は真冬でもサンダルを履いている。
 
靴を履いていると、妙な息苦しさを感じるからだ。
きっと、私の足には第2の呼吸器官があるに違いない。
しかし、矛盾するようだが、私は大のブーツマニアでもある。
ブーツマニアと言っても「ブーツで踏まれたいと思う系」では無いので。念のため。
仕事中に使っているスニーカーの底が磨り減り、ついに穴が開いた。
よくぞ、ここまで履き潰したものだ。
急遽、仕事で使う靴を買う必要が生じた。
「仕事で履く靴を買ってくれ」と、私は女房にお願いした。
「サイズは27.5cmで良いんでしょ?明日、横浜で買ってきてあげる」
どうせ、ABCマートあたりで、¥2,000位のナイキっぽいバッタ物を買ってくるに違いない。
もう一度言っておく。私はブーツマニアなのだ。
 
「やだっ!レッドウイングがいいっ!」

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「れっどういんぐ?何だそれ?」

レッドウイングも知らないのか!
レッドウイングはUSAの老舗ブーツブランドだ!
会社のファッションリーダーを自負する私が、バッタ物のナイキなど履けるはずがなかろう。
 
ニッケなど「御免被りの介」だ。
 
「じゃあ、見てくるよ。レッドウイングね」
あっ!ラッキー!
「エンジニア・ブーツってのがあるから。色は黒ね。ほら、現場で茶色って派手だから」
よっしゃ!明日が楽しみだ!いやっほうっ!
写真の説明はありません。

 

【ひょ(収穫編)】


「ひょうたんの収穫まだぁ~」
もう少しの辛抱だよ。
「待ちくたびれて、飽きちゃったんだけどぉ~」
秋になって、ツルが茶色くなってきたらね。

 

帰社して、社屋に設置したネットを這うひょうたんのツルを、私は見上げた。
良く見ると、大きく育ったひょうたんの実の根元のツルが茶色く枯れ始めていた。
「おおっ!機は熟した!(実だろ?)」

と、言う事で、収穫なりっ!

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【金角銀角(ひょ)】

人工授粉が成功し、ひょうたんは見る見る大きくなっていった。
「人工的に受粉させているから、今年はひょうたんがたくさん採れるぞ」
私は大きくなり始めたひょうたんをカメラに収めた。

女房に見せてやらう。
「ほら、こんなに大きくなったぞ。ひょうたんナウ」
と、女房にメールを打った。

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暫く後に返信があった。
「よかったね」
すごくぶっきらぼうな返事に思えた。
そもそも、お前のために栽培したひょうたんぞ。(6月1日【ひょ】参照)

少しは喜びたまい。

・・・何かあったな。

 

帰宅した後、女房に聞いてみた。
「何かあったのだらう」
すると女房はハラハラと泣き始めた。
話の一部始終を聞いてみると(けっこう長い話だった)良くあるモンスター上司への愚痴に近いものだった。
「ねえっ!どう思うっ!」
もちろん私は次のように答えた。
「なにーっ!とんでもないオッサンだっ!」
こういう時は女房の味方をしてやるべきだ。
どっちが正しいか、は関係ない。
モンスター上司に一縷の正義があったとしてもだ。
もし、私が女房を諫めたりしたら、彼女は孤立してしまうのだ。

 

「そうでしょっ!あんた、やっぱり話がわかるわっ!」
そうだとも、私はいつでもお前の味方だよ。例え、世界中を敵に回してもな。
私は自分の内なる声に酔っていた。だから、つい・・・
「そんな奴はひょうたんに閉じ込めてしまえっ!」
と、言ってしまった。
「・・・何?それ?」
女房は西遊記の金角・銀角のエピソードを忘れているようだ。

ようし。
「いいかい、よくお聞き。ひょうたんを相手に向けて、名前を呼ぶ。返事をしたら、そいつはひょうたんに吸い込まれちまう。ひょうたんにはそんな不思議な力があるんだよ」

 

うそつけっ!金角・銀角のひょうたんは「紅葫蘆(べにひさご)」という、それはそれは不思議なひょうたんだ。天界の5つの宝の一つなのだ。
しかし、うそでも良いではないか。傷ついた女房の心が少しでも癒されれば。

 

「・・・もう一度、教えてくれる?」女房が真顔で言った
「へっ?良いけど・・・ひょうたんを向ける、名前を呼ぶ、相手が答える、ひょうたんに吸い込まれる・・・だよ」
突然!立ち上がった女房は仁王立ちになり、あたかも巨大なひょうたんを持っているかのように、構えた。


「びょうだんを向けるっ!」
うわっ!びっくりした。
「名前を呼ぶっ!◎◎こっち向けやっ!ゴオラッ!」
おいおい・・・
「吸い込まれるっ!しゅうううううっ!」
ちょっ・・・ちょっと、まて
「ひゃははははっ!◎◎めっ!ざまあねえなっ!」
あんた・・・怖いわ~。

 

翌日、帰宅すると女房は珍しく本を読んでいた。
よく見ると、それは西遊記だった。
振り返った女房がにっこり笑って言った。
「ひょうたんの事、実話だったんだね。しかも、ひょうたんに閉じ込められた奴は、溶けちゃうんだってぇ~♪知ってたぁ~♪」
実話ぢゃありませんっ!完っ全に作り話ですっ!
「収穫まだぁ~。楽しみ~♪」
怖いわっ!

【蜂に刺された!】

今年は蜂が少ないような気がする・・・と、思って、油断していたら蜂に刺された!

それは、ある団地の緑地の調査をしているときの事である。
潅木に分け入って、樹木の種類やら、太さやらを調べていると、数匹のアシナガバチに囲まれた。
1匹の時なら出稼ぎ中の労働者なので襲われることはほとんど無い。しかし、数匹が同時に現われたときは間違いなく近くに巣があり、彼らは激怒している場合がほとんどだ。
これはヤバイ!
慌てて藪を搔き分けて逃走した。
歩道に出たので一安心。後ろを振返る。
!!!
すぐ近くに激怒したアシナガバチの一群が迫っていた!
彼らが私のつぶら黒い瞳に一撃を加えようとしているのは明らかだ!
彼らの攻撃目標は全ての動物の弱点である目なのだ。
怒れる彼らは、まるで黄色い銃弾の様に私の顔面めがけて突進した!
噴出するアドレナリンがバレットタイムを発動し、彼らの攻撃がスローモーションに見えた。
「ほりゃーっ!」
0.03秒の反射神経で見事に攻撃をかわした。

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「勝ったっ!」
私は勝利に酔いしれていた。口の端に不適な笑みがこぼれていた。

ちくっ!

ヒップに鋭い痛みを感じた。不敵な笑みを浮かべたまま、私は凍りついたように固まった。そして、目の前が暗くなっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
座るのも痛い状況である。
中腰でPCに向かってこの報告を書いている。
患部の写真は倫理規定に引っかかる恐れがあるので、某SF映画のワンシーンで代用した。

【金木犀】

良い匂いがする、と思ったら、社屋の庭先の金木犀にオレンジ色の花が付いていた。
「今年は少し早いな」
気が付いたら、夏の終わりを告げるツクツクボウシの鳴き声も聞こえなくなった。
「今年の夏も短かったな」
深まり行く秋の気配に、物寂しさを覚えながら、業務に忙殺される日々は続く。
健康で、穏やかに、生きて行けたら、それだけで満足なのに、
背中を押され、担がれて、意図せず先頭や天辺に追いやられる自分が居る。
6月の雨の切れ間には、渓流で魚と戯れ
早く起きた朝には、ベランダの鉢植えに水を遣り
夜更け前に帰宅して、夕食を食べ、風呂に浸かり、冷えた缶ビールをあおる。
予定の無い週末には、ベランダで本を読み、読了後に小説を書いてみるか、と思ったりする。
田舎暮らしに憧れはするが、都会を離れる決心は付かない。
立ち止まって、深呼吸して、呼吸を整える。
それが、私の秋だ。

人生の初秋を迎えた今、金木犀の花の匂いを感じると、ふと、そんな事を思ったりする。

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