【金角銀角(ひょ)】

人工授粉が成功し、ひょうたんは見る見る大きくなっていった。
「人工的に受粉させているから、今年はひょうたんがたくさん採れるぞ」
私は大きくなり始めたひょうたんをカメラに収めた。

女房に見せてやらう。
「ほら、こんなに大きくなったぞ。ひょうたんナウ」
と、女房にメールを打った。

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暫く後に返信があった。
「よかったね」
すごくぶっきらぼうな返事に思えた。
そもそも、お前のために栽培したひょうたんぞ。(6月1日【ひょ】参照)

少しは喜びたまい。

・・・何かあったな。

 

帰宅した後、女房に聞いてみた。
「何かあったのだらう」
すると女房はハラハラと泣き始めた。
話の一部始終を聞いてみると(けっこう長い話だった)良くあるモンスター上司への愚痴に近いものだった。
「ねえっ!どう思うっ!」
もちろん私は次のように答えた。
「なにーっ!とんでもないオッサンだっ!」
こういう時は女房の味方をしてやるべきだ。
どっちが正しいか、は関係ない。
モンスター上司に一縷の正義があったとしてもだ。
もし、私が女房を諫めたりしたら、彼女は孤立してしまうのだ。

 

「そうでしょっ!あんた、やっぱり話がわかるわっ!」
そうだとも、私はいつでもお前の味方だよ。例え、世界中を敵に回してもな。
私は自分の内なる声に酔っていた。だから、つい・・・
「そんな奴はひょうたんに閉じ込めてしまえっ!」
と、言ってしまった。
「・・・何?それ?」
女房は西遊記の金角・銀角のエピソードを忘れているようだ。

ようし。
「いいかい、よくお聞き。ひょうたんを相手に向けて、名前を呼ぶ。返事をしたら、そいつはひょうたんに吸い込まれちまう。ひょうたんにはそんな不思議な力があるんだよ」

 

うそつけっ!金角・銀角のひょうたんは「紅葫蘆(べにひさご)」という、それはそれは不思議なひょうたんだ。天界の5つの宝の一つなのだ。
しかし、うそでも良いではないか。傷ついた女房の心が少しでも癒されれば。

 

「・・・もう一度、教えてくれる?」女房が真顔で言った
「へっ?良いけど・・・ひょうたんを向ける、名前を呼ぶ、相手が答える、ひょうたんに吸い込まれる・・・だよ」
突然!立ち上がった女房は仁王立ちになり、あたかも巨大なひょうたんを持っているかのように、構えた。


「びょうだんを向けるっ!」
うわっ!びっくりした。
「名前を呼ぶっ!◎◎こっち向けやっ!ゴオラッ!」
おいおい・・・
「吸い込まれるっ!しゅうううううっ!」
ちょっ・・・ちょっと、まて
「ひゃははははっ!◎◎めっ!ざまあねえなっ!」
あんた・・・怖いわ~。

 

翌日、帰宅すると女房は珍しく本を読んでいた。
よく見ると、それは西遊記だった。
振り返った女房がにっこり笑って言った。
「ひょうたんの事、実話だったんだね。しかも、ひょうたんに閉じ込められた奴は、溶けちゃうんだってぇ~♪知ってたぁ~♪」
実話ぢゃありませんっ!完っ全に作り話ですっ!
「収穫まだぁ~。楽しみ~♪」
怖いわっ!