【金木犀】

良い匂いがする、と思ったら、社屋の庭先の金木犀にオレンジ色の花が付いていた。
「今年は少し早いな」
気が付いたら、夏の終わりを告げるツクツクボウシの鳴き声も聞こえなくなった。
「今年の夏も短かったな」
深まり行く秋の気配に、物寂しさを覚えながら、業務に忙殺される日々は続く。
健康で、穏やかに、生きて行けたら、それだけで満足なのに、
背中を押され、担がれて、意図せず先頭や天辺に追いやられる自分が居る。
6月の雨の切れ間には、渓流で魚と戯れ
早く起きた朝には、ベランダの鉢植えに水を遣り
夜更け前に帰宅して、夕食を食べ、風呂に浸かり、冷えた缶ビールをあおる。
予定の無い週末には、ベランダで本を読み、読了後に小説を書いてみるか、と思ったりする。
田舎暮らしに憧れはするが、都会を離れる決心は付かない。
立ち止まって、深呼吸して、呼吸を整える。
それが、私の秋だ。

人生の初秋を迎えた今、金木犀の花の匂いを感じると、ふと、そんな事を思ったりする。

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