INNUENDO
1991年。その年に大学を卒業した。1年留年して5年かかった。
卒業後も「国家試験を受ける」などと背伸びして、就職もせず、
アルバイトをしながらポツポツと勉強していた。
自信がなかった。
落ちこぼれの留年野郎を拾ってくれる会社など無いと、自分を見下していた。
友人たちは1年早く社会人になり、ボーナスで新車のシルビアを買ったヤツもいた。
年賀状に、建築中の家の前で得意そうに腕を組んだ写真。結婚をにおわせる文面。
一方、俺はといえば、好きな女に来年の事さえ教えてやれない状況だった。
俺はコンプレックスの塊りだった。
その年の11月25日。バイト先での昼飯の時だった。
場末のそば屋、泥だらけの作業着姿、俺は伏し目がちに「かけソバ」をすすっていた。
ブラウン管からニュースが流れた。
鼻からソバが噴出した。本当の話だ。
QUEENの新作の「INNUENDO」は2月に発売されていた。
鼻からソバが噴き出すまで、俺はフレディーがエイズだったことを知らなかった。
中坊の時から聴き続けていたQUEEN。
ひとつの時代が終わったと感じた瞬間だった。
その後、俺は「INNUENDO」を何度も何度も聴きなおした。
自分の死期を悟った人間が綴った血を吐くような歌詞。
優しく強いブレス。時に悲鳴のような絶叫。
ラストソングの「THE SHOW MUST GO ON」は、あまりにも切なかった。
「ショウを続けなければいけない」フレディーの最後のメッセージだった。
そして、何かを受け取った。
こんな状況になって、打ちひしがれている人もいると思います。
でも大丈夫。
「あんときゃ散々だったよ」と思い出になる日がきっと来るはずです。
誰かが言った。
「死ぬこと以外はカスリ傷」
思い入れのあるアルバム、QUEENの「INNUENDO」
「将来に対するボンヤリとした不安」
・・・・・・という悪霊を追い払ってくれた作品。
「本気になれば、なんにでもなれる」
・・・・・・と背中を押してくれた作品。
「心配すんな、何とかなるよ」
・・・・・・と肩を抱いてくれた作品。
「だって君は生きているんだから」
・・・・・・と教えてくれた作品。
事態が収束して、再び平凡な日々が訪れる事を祈りつつ・・・